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 何故かはしらないがオレの右腕にはいつも痣がある。どっかにぶつけたのか、誰かに殴られたのか。まったく身に覚えがないのだが、右腕には痛々しげな青い部分がある。
 文化祭も近くなってきたうちの高校も、だんだんと活気が活気がみなぎってきた。祭り好きのやつも、金儲け狙いのやつも、ナンパ狙いのやつも。なんだかんだと言いつつ気合がはいっている。当の自分はただ座っているだけの受付役を命じられたせいで、気合の入れようがない。必死な受付ってなんなんだ。 一応ミナコにも来るよう、声はかけておいた。まぁこんな辺鄙な所にある高校の文化祭なんかに来るかはわからないけど。大体あいつんちからここまで1時間近くかかるんだ、来ないだろう。
 ミナコとはどしゃぶりの雨の日にコインランドリーで出会った。雨宿りついでに着てた服を洗濯する妙な2人。そんな妙な境遇に立たされたからか、妙に気があった。そんな運命的とも言えるキッカケから、いつしかオレ達は付き合うことになった。学校は違うが、まぁそんなことは気にはならなかった。
 文化祭の日がやってきた。雲行きは怪しい上に天気予報では午後から雷雨という散々な天候だ。しかしそんなジメジメな空模様とは裏腹に、この学校はバカみたいに盛り上がっている。テンションはMAXである。受付の自分。テンションなんて上がるはずがない。だが、1つだけオレの気持ちを高揚させる出来事が起こった。予想外にもミナコが早々にやってきたのだ。まだ10時も回っていないのに。ミナコはオレを見るやいなや、笑いながらこちらに向かってきた。「お!元気に受付やってるじゃん!ん?ここなにやってんの?」
---(以上、ユー)
 ミナコの顔を見ると、少しだけ元気が出た、気がした。 「何もないよ、ただの受付。」 ミナコの言ってる意味が分かっていながら、敢えてぶっきらぼうに答えた。彼女は一つだけため息をついて、小さく笑った。 「ねぇ、受付の仕事何時には終わりそう?」「昼頃には交代になるはずだけど。」「ならそれぐらいになったらまたメールするから、ね!」 そう言うと、小走りにこちらを向きながら走っていった。今にも転びそうに見えて冷や冷やする。慌てて立ち上がったが、軽く手を振って前を向いて走っていった。胸を、撫で下ろす。ミナコの走っていった向こうには、恐らく友達だろうと思える女子が数人いた。ミナコを囲んであれこれはしゃいでいる。時折オレを指差して何かを話す。一体何を言われているやら。
 頭上で雲がゴロゴロと音を立てている。この分じゃ昼からは確実に雨だ。ミナコは俺と文化祭を回るつもりでいるみたいだが、これじゃ無理だな・・・。 「はぁ・・・どっこいしょ。」 ため息をつきながら、天を仰いだ。
---(以上、朗さん)
 「雨、かぁ。」思えば、オレは雨に縁があるのかもしれない。ミナコと出会ったコインランドリーに入ったのも、雨が降ったから。受付係になったのも、雨が降りそうな空模様のせいで学校に来るのが遅れたから。だとしたら今日の雨も・・・なんて思ってしまう。なにかあるのかな。 なんとなく右腕の痣を気にする。身に覚えのない、この痣。もしかしたらこの痣も雨に関係があるのかな、なんて思い浮かべ、笑う。時計は11時半を回った。そろそろ交代の時間。しかし、まだ友人は来ない―――
 約束の時間からだいぶ遅れて、友人が来た。「悪い、悪い」「何やってんだよ、今何時だと思ってるんだ?」「いや、これ買うのに結構並んでてさぁ・・・」この友人は学校でも有名な大食漢だ。まぁ、このまるっこい体を見れば、一目瞭然なのだが。だから、遅れてきた理由はおおかた『食べ物』、そう決まっていた。友人が右ポケットから何か取り出す。チケットだ。「何でも何か有名な人が公演にくるんだってさ」「何か有名な人、ねぇ・・・」そんな公演あったのか、なんて脳裏をよぎったが気にしない事にした。むしろ、左手に持っている大量の焼きそばに目がいってしまう。ふと、時計をみると大事なことを思い出した―――ミナコにメールしてない!慌ててケータイを取り出すが着信もメールも無し。きっと、あの友達と楽しく回ってるんだろうな。はぁ、とため息をつきメールをしようとした瞬間。後ろから肩を叩かれた。背後には、頬を膨らませているミナコの姿があった。
---(以上、ジャックさん)
 「あ、おぅ・・・」突然の事で少々驚いてしまったが、とりあえず謝ろうと思った。しかし、ミナコは先ほどとは対照的な満面の笑みでオレを見つめると、間髪いれずにオレの右腕を両手で掴んだ。一瞬、右腕の痣が気になった。だが、ミナコはそれに気付いていない。ミナコの両手はオレの腕から手首へ、手首から手のひらへと下りていった。こんな態度をとるのは初めてだ。雨といい、妙に気になる痣といい、今日はなにかあるな。「じゃぁ、一緒に行こうか!さっき、トモダチと並んでチケット買ってきたから、それ行こうよ!」なにかと思えば、さっき友人がくれたチケットが2枚、胸ポケットに入れてある。「ミナコ、誰が出るか知ってんの?」「え〜とぉ・・・分かんないけど、なんか有名な人だってみんな言ってた!」友人と同じ切り返しでなんの情報も得られなかったが、公演の会場に足を進めることにした。会場は学校の一番奥のグラウンド。一緒に手をつなぐ。空を見ながら色々考えてしまった。気になることが多すぎる。「そういえば、トモダチはどうした?」「たぶん、先に会場に行ってると思う!」「そうか・・・うわぁ!!」空を見上げていたせいか、小石(こいし)に躓いてしまった。「痛っ、うぅ・・・んぅ」痛いのは地面に打った足の方ではなく、痣の方だった。その途端、また雨が降り出した。「雨か・・・今度は何が起こるんだろう」
---(以上、笹さん)
 「なに?」つぶやきが聞こえてしまったのか、ミナコが尋ねてきた。「え?なにもいってないけど・・?」一人でつぶやいたのがなんとなく恥かしくなりオレはとぼけた。
 雨が強くなった。オレとミナコは足をはやめた。「えっと・・・グラウンドの奥って言ってたから・・・」オレは辺りを見まわした。「あ!あそこじゃない?」ミナコは、前方に見えるテントのようなものを指差した。「あぁ・・・あれかな・・・?でも、随分大掛かりじゃないか?」・・・よほど大物でもきてるのかな。オレはそんな期待を抱きはじめた。テントは、近くで見ると更に大きく見えた。ふとテント前を見るとテントに入ろうとしている学生の集団を見つけた。その中に大食漢の友人を見つけた。・・・皆がこちらを見ているのは気のせいだろうか?「おい!はやくこいよ!」友人にせかされ、オレとミナコはテントに飛び込んだ。
 テントの中は真っ暗だった。暗くても、かなりの人がいることがわかる。人々のささやきでテント内が騒がしくなった頃、突然ステージにライトがあたった。上下とも黒い服とズボンをきた40代くらいの男がステージの上に立っていた。「えー、私はウインド社、社長の河村と申します。わが社の新製品の発表及び動作テストに参加して頂き誠にありがとうございます。学校を貸しきっての動作テストであり、生徒の皆様には大変ご迷惑をおかけした部分もあるかとおもいます。」黒服の男・・河村はゆっくり頭を下げると、一礼をした。「動作テストの結果は・・・」河村はテントの中を見まわしはじめた。そして、オレとミナコを見つけると、オレ達をにんまりとした笑顔で見つめながら言った。「どうやら、成功のようです!」テント内が拍手で溢れた。製品?動作テスト?・・・成功?なんのことだかわからない・・・しかし、周りを見る限りオレのようなわけがらかないというような反応をしている人はいない。ミナコ以外は。「ねぇ・・・なんなのかな?」ミナコの声ではっと思考から抜け出した。「わからない」「友達からチケットもらったんでしょ?何か言ってなかったの?」「いや、、なにも・・・」
 話しについて行けないオレ達にはかまわず河村は話しつづけた。「人間は過去から限りなく人に近いロボット・・・知能・心をもったロボットをつくろうと力を注いできました。しかし、知能や心をもったロボットは今まで作られた事はありませんでした。心というものは人にはつくれないと言われてきました。しかし、私達ウインド社はそれを可能にしました!」また、テント内が拍手で溢れた。ざわめきが広がっていった。ロボット。なぜかこの言葉が頭の中で木霊した。気分が悪い。不快感がある。ミナコに話しかけようとした瞬間、腕が何者かにつかまれた。「うあっ!なにすんだ!」振りかえると、河村と同じ服装・・上下黒の男がオレの腕をつかんでいた。腕をまわしても、蹴ろうとしても、男の力には逆らえなかった。「やめて!!」横を振り返ると、ミナコも腕を捕まれていた。必死の抵抗もむなしく、オレ達は男達に強引につれていかれた―――ステージへと。
 「こちらが、私達の新製品です。」河村が言った。「なにをいってるんだ!オレたちは・・・」叫ぼうとした瞬間、男に口をふさがれた。「見てのとおり、自己判断能力つまり知能そして心までもが完璧につくられています」「あれが・・」「すごい・・」そんなささやきがテント内を包んでいった。製品・・・?心・・・?・・・つくる?「これが!次世代ロボット、タムタムです!」ざわめきがテント内を木霊した。「あれがロボット!?」「本当に人間みたい・・・」
 ロボット、ロボットロボット、ロボットロボットロボット、ロボットロボットロボットロボットロボット
 「うああああああ!!!!」オレは叫び声をあげた。オレの方を五月蝿そうな目で見ると河村は言った。「スイッチを、切れ」河村がそういうと、腕をつかみ口をふさいでいた男は右腕をつかみ、オレの痣を強く押した。次の瞬間視界が曇りはじめた。「あ・・・あ・・」言葉が上手く喋れない。体の力が抜けていった。最後に見えたのはミナコの右腕にあるオレと同じような形をした痣だった。
 ―ウインド社、タムタム実験報告。ロボット同士の付き合いも可能な事を確認。スイッチである右腕の痣に水分がつくと多少の痛みが感じられる様子。"ロボット"という言葉に異常反応。原因は不明。原因究明、そして改良の後再度、動作テストが必要。しかし、それ以外の運動、知能、心などには問題は見当たらない。」
 ・・・
 何故かはしらないが自分の右腕にはいつも痣がある。どっかにぶつけたのか、誰かに殴られたのか。まったく身に覚えがないのだが、右腕には痛々しげな青い部分がある。文化祭も近くなってきたうちの高校も、だんだんと活気がみなぎってきた・・・

---(以上、tamuさん)

070126(0510XX)
※ 「クリエイティブな秋」という企画の産物。ユー、朗さん、ジャックさん、笹さん、tamuさんの順で、「コイ」という語を入れた文章を繋げて小説にしよう!という試みでした。みなさんありがとうございました!

ほーむ > げるまにうむ


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