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 >> 夏休みらしくドカント二世さんとオフ会(前編)
※ なんか虫とか色々でてくるかもしれません。苦手な人は身構えてね

 二世さんはイビツな眼鏡を持っていた。それはどこかで見たことがあるようでいて、最近ではほとんど見なくなったようなタイプ。懐かしさを帯びつつも、力強さも秘めている。そしてなによりそのカラーリング、実に個性的だ。どこかで見たことがあるような気がする・・・大木凡人?いや、違うな、あんなのじゃない。ゆりおか超特急?いや、こんなマイナーな芸人が周知されているわけがない。んーむ、どこかで見たことがあるような気がするんだがなあ。
 今回は二世さんの提言から実現した寄生虫オフ。いまだかつて類を見ない、独自性に満ちたオフです。当初、私は「止めてください、私はサナダ虫アレルギーなんです。あ、もう痒い、全身に蕁麻疹が、ほら、見て見て」といった及び腰スペシャルを発動していたのですが、二世さんの鋭い眼光とスノーマン・ショルダータックルの前にはなす術もなく、ただただ従順になるしかありませんでした。直後には私もすっかりその気に。血反吐を吐いてでも寄生虫を目の当たりにしたいと思うまでになりました。これぞまさにドカント・マジック。最初は全然行く気なかったのにあら不思議、ですね!
山手線なのさ! 入館料は無料!
 8月の午前中、JR目黒駅は人もまばらで実に動きやすい環境。山手線が去り行くのを見送り、一息ついていざ出陣。目的地は目黒寄生虫館。私は実を言うと、二世さんの提言があるまで存在すら知りませんでした。寄生虫で、しかもそれで会館を作ってしまっているとは。是非私の知らないところでモリモリやっていて欲しかったのですが、なんの因果か今回このようなことになってしまいました。駅の西口から坂を下るようにして目黒通りを歩く。アーケードを通り、目黒川を渡り、山手通りをまたぐ。30度を越える炎天下の中、男2人が口数も少なく寄生虫を求め歩く。実に形容しがたい情景である。山手通りを越えてからは上り坂に転じており、このまま行けば目的地に辿りつく前に・・・絶える・・・!と思いはじめる、ちょうどそこらへんに差し掛かると左手に「目黒寄生虫館」がありました。駅から徒歩で約10〜15分といったところでしょうか。暑さともあいまって、2人の新陳代謝のよさがこれ見よがし示されていく。「いやー、やっと着きましたね、二世さん」「ここが目黒寄生虫館・・・やってやる・・・やってやる!」二世さんがなにをやらかすつもりなのか一抹の不安を覚えながらも、私たちはポテンシャルのはかりしれない好奇心にあと押しされながら、その場に足を踏み入れる。
わんさわんさ これはすごい山口左仲
 鼻にツンとくる刺激臭によるお出迎え。容易にホルマリンが発する刺激臭だと認識できる。まず入館して驚いたことが一つ。混んでる。休日ではあるが、こんなマイナー(だと思い込んでるのは自分だけかもしれないが)なところにこれだけの人が集まるものなのか。それほど広いとは言えないフロアに人が多く集まっている。メモ帳を装備している小中学生がいるということは、おそらくこれは自由研究の最後のあがきだろうか。ホルマリン漬けの寄生虫軍団に好奇の眼差しを向けるお子様、そんな焦燥感を感じさせる客層がいるかと思いきや、一方では「キャー」という年頃の女性の声があがる。私がかつて思い描いていた未来予想図では、これは悲鳴なはずだった。しかし、この場であがった声は歓喜だった。直後に「かわいー!」と続くあの「キャー」だ。実際、かわいい言ってましたしね。私からして見れば「うぉっほい!こんなのが繁殖したらエグイぜ!」みたいなのがいっぱい並んでいたのですが、どうも周りの方々の見識は違うようです。ちなみに二世さんはと言えば、殺気立った目でホルマリンを凝視。「こいつは・・・違う・・・こいつも・・・違う・・・くそっ!アレはどこだ!?」などと、もはや意識はネバーランド状態。話かける余地もありません。あれあれ?二世さんってそんな人だったのかしら?かんばーっく、ドカント二世ー!
ヒルってもっとこう・・・ マラリア運びます!
 仕方ないので1人でケータイ片手にホルマリン漬けやら模型やらをピロリロリン、ピロリロリン。実際、基本的には単体で標本にしてあったので、想像していたようなウジャウジャ、ムギャムギャなものは少なく、むしろ興味深いものばかりでした。サナダ虫(日本海裂頭条虫)なんかただのなが〜いヒモみたいなもんですし、別に虫それ自体にもそこまで嫌悪感を覚えませんので毒蛾の幼虫を見ても「バトラだ!バトラ!」と1人で喜んでたくらいです。これはノってくると実に面白い。虫垂炎を起こす寄生虫が!ドジョウを生で食べると危ない!北海道じゃエキノコックス!赤痢アメーバ!マラリア!などなど、聞きかじっていただけの知識を固めるのには重宝する場だと思います。しかし、私にはこの図の意味がわからない。
うんこ危険
 どう考えても、うんこ食うな!にしか見えねーよな・・・などと思案をめぐらしていると、向こう側から二世さんの声が聞こえてくる。でかい声あげてなにをやっているんだ、あの人は。ネバーランドを人に押し付けちゃいけませんよ・・・「見つけたぞ!アニサキスーザン!お前の正体はわかってるんだ!さっさと本性を晒して見せろ!」二世さんはショーケース越しに、なにやらホルマリン漬けのひとつに向かって声を上げているようだ。周囲のお客は水を打ったように静まりかえり、二世さんを取り巻くような形になった。ああ、この人すごい恥ずかしいよ。これが世に言う困ったちゃんですか・・・初めてですよ、こんなパターン。「さぁ!なにをしている!怖気づいたのか!?」さすがにそろそろこれは迷惑行為になってきた。いい加減うるさいのにも限度というものがある。あ、ほら、係員の人も近づいてきちゃったよ!もう限界だ、と無理矢理二世さんを館外に引きずり出そうと、駆け寄った瞬間、館内は地鳴りを上げた。「ズゴゴゴゴゴ・・・・」陳列されていた容器がカタカタと音をたてる。蛍光灯の明かりは点滅し、揺れは徐々に強くなっていき、その場に立てなくなるほどにまで発展していった。さっきまで普通に展示されていたホルマリン漬けの中身がどんどん膨張していく。それは容器に収まることができなくなるまで膨らんでいき、ついにはショーケースをも破壊した。ガラスが割れる音が響き、得体の知れない物体は音を立ててさらに大きくなっていく。歓喜は悲鳴に変わり、事態の飲み込めなかった私たちはようやく身の危険を感じ始めた。両手をついて這ってでも逃げようとする者、なす術なく呆然と膨張の過程を目の当たりにするもの、恐怖におののく者。一瞬にして目黒の一角は悲劇の舞台となった。
 二世さんは直立不動で巨大化する物体の前にたたずんでいた。そして、おもむろに胸ポケットから例の眼鏡を取り出し、それを装着した。・・・思い出した。あの眼鏡は確かに見覚えのあるものだった。古田監督のいとことか、売れない芸人とか、そんなものとは全く違う。私はあの眼鏡を装着することによってもたらされる奇跡を知っている。そして、それが今眼前で起こっている。これは―――
 二世さんはウルトラセブンに変身した。(つづく)

070826

「夏休みらしくドカント二世さんとオフ会」(後編)

ほーむ


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